運命の犯罪。

 図書館で借りてきた『エリアンダー・Mの犯罪』(ジュリー・ユルスマン/文春文庫)。タイトルはミステリ的だけど、時間SFということで読んでみました。

エリアンダー・Mの犯罪 (文春文庫)

エリアンダー・Mの犯罪 (文春文庫)


 1983年、ニューヨーク。本書のヒロイン、レスリー・モーニングは夫と離婚したばかりの女性。その折、自分の祖母が〈人殺しで娼婦〉だったことを告げられる。離れて暮らしていた父親に会いにいこうとした矢先、父親は病気で急死、遺されたのは、タイム・ライフ社版の『第二次世界大戦史』だった…。

第二次世界大戦とは、いったいぜんたいどういうことなんだ?」

第二次世界大戦史』が、〈架空〉の出来事にしては、あまりにもリアルで驚く人々。この世界ではビキニ環礁がリゾート地になり、ノルマンディー号が就航しているのだ。

 改変歴史ものは第二次世界大戦期を分岐点としているのが多く、これもそのひとつではある。ただし、第二次世界大戦のなかった(改変された)世界から、第二次世界大戦のあった世界を探るところが面白い。

「どうやら」と彼は言った。「あなたのお祖母さまは二度死ぬつもりでおられたらしい」

 1913年、カフェでひとりの画学生を射殺した祖母、エリアンダー・モーニング。
 自分が求めるもののために生きた女性が、ここでは魅力的に描かれていて、ラストシーンが美しくも痛々しくも心に残る。

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 時間ものが好きなかたには、おすすめです。絶版本ですが、復刊してほしい。


※ここからは余談ですので、先入観なしに読みたい方は飛ばしてください。
 こういう小説を読むと思うことは、ほんとうにこの解決で良かったのか? こうするしかなかったのか? ということ。『魔女の鉄槌』(J・S・ヒッチコックを読んだときも同じように感じた(これ、なんとなく同じような肌触りを感じるんですけど、私だけでしょうか?)。アメリカ的解決? もちろん、自分の命も危険にさらされているわけだし、言葉が通じる相手でもないし、ほかの手段はないのかなぁとも思いますが…。
 で、今回感じたのは、レスリーたち〈現代〉の解決に疑問を持ったとしても、エリアンダーのとった手段はきっと誰も否定しないだろうということ。そうしなければ何が起こったか、誰もが知っている。同じような状況でも〈現代〉の解決には答えがない。この一瞬が違ってたらどうなっていたか。なにが最善なのか。自分の生きる〈今〉とその先を、俯瞰して見ることは誰にもできないのだから。…って、なんかマジメすぎですかね、このコーナーは。