機械の夏。

昨年やっと復刊されたSF『エンジン・サマー』

エンジン・サマー (扶桑社ミステリー)

エンジン・サマー (扶桑社ミステリー)

はるかな未来。機械文明は崩壊し、さまざまな遺物のなかで、独自の文化が発達した世界。少年〈しゃべる灯心草(ラッシュ・ザット・スピークス)〉は、みずからの旅の顛末を語りはじめる。聖人になろうとさまよった日々、〈一日一度(ワンス・ア・デイ)〉と呼ばれた少女との触れあい、〈ドクター・ブーツのリスト〉との暮らし、そして巨大な猫との出会い―そこからじょじょに浮かびあがってくる、あざやかな世界。彼の物語は、クリスタルの切子面に記録されていく…いまも比類ない美しさを放つ、ジョン・クロウリー幻想文学の名作、ついに復刊!(カバー裏より)

 もったいないことをした。
 こまぎれ読書をしていたら、名前や言葉(人名に限らず、物とか現象とか)が「これなんだったっけ…」となってきて。ありがちなんですけど。大筋はわかったし、最後のほうでなるほど、と思ったりもしたのだけど、これってきっと細部を楽しむ小説ですよね。。。なんか、この美しい世界を味わい損ねた気分です。
 文明を失った未来の世界では、たんなるゲームやガラクタに近いものが、深淵な意味を持って迎えられていたりします。例えばクロスティック・ワード(クロスワードパズル)に隠された大事なものを見つけようとしたり…。一見バカバカしいようでいて、しかし…。
「わしらにはわしらの〈システム〉、わしらの叡智がある。それでも、片脚であることに変わりはない。失われた片脚は、風邪とちがって、治ることはけっしてない。わしらはその欠落といっしょに生きていくすべを学ぶ。学びつづける」
 片脚(文明)を失った彼らの世界、生き方がだんだんと見えてきて、切ない。
 よく読めば、もっとずっと深い世界を見せてくれそうな一冊。できれば次は熟読・解読したい。
 著者のジョン・クロウリーは、『リトル・ビッグ』世界幻想文学大賞を受賞。そちらもいずれ読んでみたい。